無双直伝流(やわらぎ)−後に夏原流−について

この居合和(やわらぎ)は、代々直伝に伝わる業を七代英信により新たに補充編纂され居合柔術として夏原氏が代々相伝し夏原流柔らとして受け継がれる事が約束されていた。享保の時代に七代英信により居合柔術として編纂され完成していた。その後八代荒井勢哲へ受け継がれ、九代で直伝居合と共に土佐の地へ相伝された。この秘伝居合柔術は正統十二代林益之函政誠と傍系松吉(神伝流)との宗家相続の確執により途絶える悲劇の運命となってしまっていた。正統十五代谷村亀之亟自雄の宗家相続の時には不揃いの伝書しかなくまともな伝書は棒術しか存在しなかった。他の伝書は何者かに因って抜き取られ隠匿の憂き目に遭っていた。
嘉永五年癸子六月吉祥日、谷村亀之亟自雄は「長谷川流居合之位其他伝書不揃なるを遺憾とす」と書き残している。(百錬居合叢書99頁より)。
この伝書は十二代林政誠が書き残して、十三代衣田満蔵、十四代林政敬へ伝搬され、十五代谷村亀之亟自雄伝来と記載されている。一古の伝書、居合棒太刀合巻だけが残されていた、「英信流棒術」である。英信については最近新しい説が発表され、讃岐の出自で宝蔵院槍術の長谷川派であるといわれ118歳まで生存し、江戸で死亡したといわれている。何を根拠の説なのかはっきりしない。
夏原流柔術の伝書は何者かによって長らく隠匿され続けていたのであったが、この古文書は運良く存在していた。正統二〇代宗家河野百錬が昭和二五年以降四年の歳月を費やして、土佐の各地に散らばり存在していた全ての土佐居合古文書を蒐集した。その伝書の中に百年の歳月を得て正統派の手に行き渡ったのである。まさに奇跡であった。この柔術は剣術に対する柔術で古文書では「和」やわらぎと記され、六段階に編纂されている。(百錬居合叢書より)

この失われた夏原流柔術の業、六五本を手解き出来る居合人は現在途絶えて終って我々居合人には、無双直伝英信流の正統派の中にも聞く事も無く、また傍系居合と伝えられる夢想神伝流の書簡の中にも伺い見る事は出来なかった。無双直伝英信流の兵法から完全に忘れ去られ眠っていた柔術である。実質には百本といわれているが、柔術は業の解読が完成すると波及効果をもたらし三倍四倍と業が拡大していく、これが柔術の楽しさである。
特に、剣道連盟が長年に亘り誘導した欺瞞説、細川から秘書神伝流伝書を引き継いだとされる中山博道モデルにも存在を確認することは出来なかった訳で、日本剣道連盟が神伝流秘書と中山博道を結び付けた根拠は百錬居合叢書土佐居合兵法神伝流秘書を百錬の死後盗作(剽窃)した実態がここに完全と浮かび上がる。
「中山博道の傍系十六世は眉唾ものであり。板垣退助と細川義昌二人の政治家を悪用しただけである」この郭のごとき謀説の黒幕は剣道連盟壇崎友影であった。
板垣退助といえば明治の自由民権思想家で「板垣死すとも自由は死なず」西郷の武力抵抗に対して板垣は言論をもって政府と戦ったフランスのルソーに匹敵する偉人である。
百錬傍系派左記が解き明かす、中山博道は森本禹久身の弟子に間違いなく、神伝流開祖説を立ち上げた偽説は国家国民を欺いた恐ろしき剣道連盟と壇崎珍伝流宗家の珍説である。
この夏原流やわらが百錬居合叢書だけに存在を確認することができるのは昭和二十九年以後のことで、河野百錬無双直伝英信流居合兵法叢書は昭和二十九年九月十七日に作成され、河野百錬はここで第一編土佐居合兵法神伝流秘書(山川久蔵述)を1頁に据え、第十三章夏原流和之事を35頁に内容を説明しているのである。(この時点で傍系居合は直伝の名乗りを許諾されていた)
河野百錬は、細川より中山博道が受け継いだとされている神伝流秘書(山川久蔵述)を土佐の居合人より受け継いでいたのであった。日本人として唯一人の伝承者である。
第二十代正統宗家河野百錬が無双直伝英信流第十九代正統宗家、居合術範士、柔道教師七段、福井春正より相伝された居合術は1に林崎夢想流、2に林崎神伝重信流、3に林崎神伝流、4に林崎無双神伝重信流の四つの流派であつた「右同一之名称也」昭和二十五年一月三日、大日本武徳会居合術範士河野稔百錬殿と押し印され署名されている。百錬宗家が正統派も傍系も何ら無双直伝英信流に変わらないと唱える根拠がこの四つの名称の相続人であつたからである。それがために全ての土佐居合古書を受け継いだ。河野百錬以外に宗家を名乗れる宗家は現在において存在しないものと確定できるのだが。最後の宗家と我々は確信出来る。この後全ての土佐居合伝書は河野宗家と共に土佐の地を離れた。
江戸で改革された無双直伝居合兵法とは居合術、太刀位(居合剣術)柔術、棒術と構成された“総合武術”であったことが歴然と判明するのである。
直伝居合の業の中に伺える颪の「の字を書く」柄回しは柔術の業を導いているのであるが、夏原流を忘れた現代居合ではその業が暗示する流派の真髄は読み取ることが出来ないであろう。
夏原流柔術は、捕手、立会、小具足、後立会、小具足割、本手之移と六節を以って構成され六五本の古伝の業を伝えている。大太刀捕、小太刀捕と剣を抜かずして敵の剣で敵を瞬時に制圧する事が出来る。恐怖の秘伝の業である。
この夏原流柔術を体得して初めて、古歌が伝える田宮平兵衛重正の遺作、「人に斬られず人斬らず、人にさかふは非刀としれ」古歌の調べが伝える古伝を噛みしめてみると、あらためてこの古歌の意味が何を伝えようとしているかが判るはずである。
河野百錬の正統正伝を受け継ぐ孫弟子、日本居合柔術連盟易水館館長である小生が百錬居合叢書を元に、同志および門弟たちと共同して夏原流柔術を百五十年の眠りから六年の歳月を経て、ここに呼び覚まし、再現する事が出来たのである。

以上


平成十五年九月二日
居合柔術 易水館 若 浦 次 郎